第39章

「兄貴」

田中尚哉は車を降りるなり、乱暴にならない程度にドアを閉めた。田中辰哉の視線を、そこで断ち切る。

――大島莉理を、絶対に見られたくなかった。

田中辰哉は監視カメラへ目をやる。

「ここで撮られる気か?」

田中尚哉は一瞬、言葉を失った。

「撮られたら明日のゴシップ誌だ。『田中グループの尚哉氏、地下駐車場で女と車内で……』ってな」

露骨に艶っぽい文言を口にしているのに、辰哉の表情は微塵も揺れない。

田中尚哉の顔がみるみる曇った。

「爺さんは、スキャンダルが一番嫌いだ」

その一言は、胸に落ちる鉄槌だった。

田中家で尚哉がいちばん恐れている相手――それは、田中家の実権を握...

ログインして続きを読む